ジャズが甘くなかった話

ついこの前まで春に心を躍らせていたのにもう夏ですね。まくいんです。

 

何気に春の間ずっと記事を更新できていなかったことに気づきました。この三か月間、引っ越しやら帰省やらサークルのライブやら恋愛やら何かとイベントが多く、記事のネタは山ほどあるのに執筆に着手しないという状況が続いていました。

 

ということで何を書くかだいぶ迷ったのですが、今回は普段私の生活の大部分を占めているジャズについてお話したいと思います。

※一口にジャズと言っても色々ですが、ここではざっくりコンボで演奏されるジャズについてお話します

 

皆さんはジャズという音楽にどのような印象をお持ちでしょうか。

お洒落なバーでBGMとして流れているのを想像したり、なんとなく敷居が高いというようなイメージを持っていたりする方も多いかと思います。実際にジャズは大人たちが酒を片手に集まる場で生まれた音楽ですし、そのような文化的側面も相まってポップスなどの音楽とは一線を画した存在として認知されていることは確かです。

 

私もそんなジャズに魅了されたうちの一人。

先ほど述べたような音楽に付随する社会通念を排除しても、私の心をぐっと掴んで離さない音楽、それがジャズでした。手の込んだ料理が美味しく感じられるのと同様に、複雑で洗練された音楽はやはり人の心を打ちます。逆を言うと、人の本能に訴えかける音楽というのは精巧な作りをしているのです。これが後々私を苦しめることになるのですが。

 

私は大学1年生の秋から大学のジャズサークルに所属して、それをきっかけに本格的にジャズピアノを始めました。小さいころからジャズに強い関心がありクラシックピアノもやっていたため、大学のジャズサークルの活動を覗いてジャズピアノを弾こう!と決心するのに時間はかかりませんでした。

後にもお話をするのですが、この、「ジャズ」と「ピアノの経験(それもクラシック)」を頭の中で簡単に結びつけて気軽に足を踏み入れたのが運の尽き。ここから、私がこれまで一方的に愛を傾けかつ羨望の対象としていたジャズと、自分の指先で紡ぐ音楽の間にある溝が想像以上に深いものであることをじわじわと突きつけられるようになるのです。

 

そもそも、私の場合ほとんどコードの知識がない状態からのスタートだったので、ジャズピアノを始めるといってもまずはコードを理解するとこから始めなければなりませんでした。ジャズは音楽理論を理解しないことには始まりません。

このことを人に話すとよく「ジャズってもっと自由な音楽なんだと思ってた」と言われますが、自由ということはその分責任が伴うんだなあと強く感じます。「弾かなければならないこと」が少ない分、自分で責任をもって音を組み立てなければなりません。大学の履修と似てますね(?)

(こんなことを話し始めるとキリがないのですが、音楽理論というのは歴代の偉大な音楽家たちが本能的に生み出した音楽を後世に伝えるツールに過ぎないため、音楽の根底には自由があると思っています)

 

しかしジャズの世界に足を踏み入れてみると、ちょっとやそっと楽譜を読めるレベルでは太刀打ちできない難解な音楽理論がごろごろ転がっている上に、頭では理解していても音として形にできないなんてことが当たり前に起こるのです。

クラシックピアノでは基本的に左手はトライアド(3和音)、右手は楽譜に書かれたフレーズをはいはいと受け入れて弾いていただけの私にとって、セブンスコード(4和音)が基本リズムなんて楽譜に書かれてないソロは自分で何ができるか考えてその場でフレーズを作り出さなければならないという重圧はかなり大きかったです。

 

以下の画像は頭がおかしくなった私が夜な夜な描いたものです。

 

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まさにこれ。わかんないよ。次から次へと知らない横文字が飛び交い、知れば知るほどまたわからなくなる。思うようにジャズに近づけず、ひたすら音楽理論と格闘する毎日でした。

 

そんなこんなを繰り返して半年が経ち、今年の3月、1年生同士でピアノトリオを組んでライブに出演する機会がありました。曲目は以下の通り。

 

・Little Lulu / Bill Evans Trio

・The Shadow Of Your Smile / Eddie Harris

・Birk’s Works / Junior Mance

 

この3曲を一か月で仕上げたと思うと恐ろしいですよね。クラシックピアノをやっていた時は1曲を半年で仕上げていたのに?????

 

ライブ前の一か月は怒涛の日々でした。2曲目のThe Shadow Of Your Smileはフロントが入ってくれたからよかったものの、他の2曲はテーマを弾かなければならないし、コードも覚えなければならない、なんといっても一番しんどかったのはそれぞれのピアノソロのコピーをとる作業でした。全コーラス完コピまではいかなくとも、2コーラスソロをとるだけで動悸・息切れ・めまいです。特に速弾きを生業としている(?)ピアニストのソロコピーは何度も何度もテイクを聞いて鍵盤で確認して楽譜に起こして……の繰り返しで、本当に気が遠くなりました。指何本あるん。

練習期間中何度泣いたことか。ただでさえ打たれ弱いのにジャズを始めて早々にこんな壁にぶち当たってしまい、ピアノに対する恐怖心さえ募ってきました。

 

そして迎えた本番当日。

数日前まで一曲通りさえしなかったのに、運が味方してくれたのもあってロストもせずキメもしっかり決まって、なんとか無事3曲終えることができました。ベースとドラムの子にも大感謝ですありがとう。そして先輩たちがとっても優しかったおかげでお褒めの言葉をたくさんいただけたのも精神衛生上良かったです。個人的にBirk’s Worksのテーマのレイドバック(リズムを若干後ろに寄らせてのっぺりと弾く奏法)を多くの人に褒めてもらえたことが一番嬉しかったです。それでもまだまだ曲の完成にはほど遠いレベルだったため、正直このライブは場数カウントになってしまったなあとちょっと反省しています。

 

そんな感じで今回初めて人前でジャズを演奏するという経験をしたわけですが、このライブを通じてジャズの手ごわさを再確認させられました。

 

以前、私の大好きなOBさんが私にこんなことを話してくださいました。

 

「ジャズははっきり言って難しいし、軽い気持ちで始められる音楽じゃない。そのギャップに耐えかねてみんな辞めてっちゃうんだよね。」

 

もっと早く聞きたかったなこれ。

ジャズって難しいに決まってるんだと。そりゃそう。簡単なわけないんだと。

 

なんとなく自分には音楽的センスがあると思っていたし、人よりは音感があるつもりでいたし、なんならピアノも人並みかそれ以上には良い演奏ができると思っていた。

どうやらこれらはすべて過信だったようです。

OBさんのおっしゃる通り、自分に期待していた分、私も現実との“ギャップ”に苦しめられました。しかし同時に、この言葉で開き直ることができました。ジャズを思ったように演奏できないのは私だけのせいじゃない。ジャズという音楽自体並大抵の努力で太刀打ちできるものではないと。ジャズの世界に足を踏み入れてたかが半年。こんなところで折れてる場合じゃないなといい意味で背中を押されました。

 

ジャズは甘くない。

 

痛いほどそう感じさせられる半年でした。

 

ここまで長々とジャズの苦悩についてお話してきました。しかし、音楽理論の勉強に頭を悩ませる一方で、今まで感覚で楽しんでいた音楽に理論による解釈という形でアプローチできるのはとても幸せなことだと感じます。人間が「言葉」を通じて初めて物事を認識するように、理論という枠組みをもってジャズを自分なりに捉えられるという楽しみはやはり理論を勉強してこそ得られるものです。「なんかかっこいい」を形にして、それを少しずつ自分のスキルとして習得していけたらなと思います。

 

これだからジャズはやめられませんね。

 

最近は秋ごろのライブに向けてまた新たにバンドを組み、曲を決め、こわこわコード進行に打ちひしがれながらも少しずつ練習しているところです。ピアノと向き合うたびに自分の未熟さとジャズの手ごわさを痛感させられる毎日ですが、もっとたくさんのジャズを聴いて、たくさん理論を学んで、一人前のプレイヤーになれるようコツコツ努力しようと思います。

 

ジャズに限らず、新生活で新しいことに挑戦しようとしている人、何かに一生懸命打ち込んでいる人、一緒に頑張りましょ。

 

最後に、私の敬愛してやまないピアニストBill EvansのStella By Starlightを添えて結びとします。

youtu.be

 

ピアノ弾いてこよ。